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鈴木卓爾(監督)

 『ゾンからのメッセージ』は、謎の現象「ゾン」に囲まれた町に暮らす人々についての映画です。脚本と登場人物は、古澤健監督の呼びかけに応じた、映画美学校アクターズ・コース第2期の6名が、ワークショップの時間の中から見つけたものを基につくりあげられました。映画の中の彼等が暮らす場所「BAR 湯」も彼等の手によって、埼玉県深谷市の、とある小屋をリフォームして撮影されました。編集作業と並行して、この作品に関わったキャスト&スタッフらの手によって、町の空を覆い尽くす現象「ゾン」が組み上げられました。それは、膨大な量で、壮大な作業でした。そうやってこの映画は出演者自身の痕跡が、演技だけではないところにまで反映されているであろう、奇妙な天蓋を持つシェルターのような映画になりました。

 撮影の行われた2014年からだいぶ経った2018年、多くのお客さんに観ていただく事になりました。「どうしてこんなシェルターみたいな映画を作ったのだろう?」と私の記憶も曖昧になって来つつあります。私達はいろいろなことを忘れて生きています。忘れていても事態は全く変わっていないという事もあります。シェルターに裂け目が出来て、中から出てくる者にそのことを思い出させられる為でしょうか。あなたには、外側の世界はありますか?彼女彼らの町、彼彼女らの暮らし、町の人々が想いを馳せる、ゾンの外側の世界。『ゾンからのメッセージ』をどうぞご覧下さい。

  宇宙の映画を作りたいといつも思っています。 というか、あらゆる映画は宇宙を舞台にしています。ただ登場する人間たちが、そこを宇宙の中心だと思っているか、それともそこが宇宙の辺境であると認識しているか、その違いがあるだけです。 『ゾンからのメッセージ』の舞台となるのは、宇宙の中心でもあり、宇宙の辺境でもあるような、不思議な町です。宇宙そのもの、かもしれません。だから、町の大きさは自転車で往復できるくらい狭くもなるし、地平線が見えなくなるまで大きくもなります。

 そういえば、なにかの本でこんなことが書いてありました。現生人類が生き延びたのは、水平線の向こう になにも見えなくてもその彼方に陸があるかもしれないと想像する力と、その無根拠さをあてにして舟を 出す無謀さがあったからだ、と。僕は、その話のロマンチックさに魅了されると同時に、現生人類の傍若無人な暴力性に辟易ともしてしまいます。『ゾンからのメッセージ』はそんな矛盾する思いをこめた物語でもあります。

 そして僕は「映画の宇宙」についても知りたいと思っています。だからこそ僕は商業映画と自主映画を往復しているのだと思います。監督であること、脚本家であること、そしてときには撮影や合成もやってみること。配給や宣伝もまた「映画の宇宙」の一部であり、僕はそこにも触れてみたい。気づくと僕は「不写之射プロ」なるプロダクションまで作ってしまっていた……(僕はいつかカメラを使わない映画を夢見ているのです)。

 そんな整理し難い思いの詰まった『ゾンからのメッセージ』が、僕らの住むここから遠く離れた宇宙の反対側のご近所にいるかもしれないあなたの心へ届くことを、僕は根拠なく祈っています。

古澤健(脚本/プロデューサー)

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